災異説におけるコロナ論 第一話

 土曜の総武線はガラガラだった。

 いつもは、ユダヤ人の強制収容所直行の電車の如く、非人道的に詰め込まれた電車路線の人口密度が、見事なまでに、ガラガラである。

「コロナちゃんのおかげか・・・」

 ゆったりと足を広げて座る贅沢を味わいつつ、世界で猛威を振るう感染症を、ちゃんづけしながら、川中島(かわなかじま)太郎は呟いた。

 底辺の非正規雇用の身分の川中島には、世間で騒がれているコロナウイルスの騒ぎは、正直、ピンとこない。
 マクロな危機に対して、打つ手なしに巻き込まれて被害を生じるのが、弱者の世の常である。
 逆に、騒ぎに乗じて、上手いことやって巨万のあぶく銭で儲ける人間がいることも、また世の常である。

 中卒で、刺身にタンポポを載せる仕事の川中島にとって、コロナだろうが天然痘だろうがペスト(黒死病)だろうが、自分に危険が迫るまでは、関係の無い世界の話だった。
 とは言え、ニュースで絶えず、愚民の軽挙妄動が放映される今、最低限の関心はあった。

 話のネタにはなる。今日の外出の目的も、実はそれである。

 そもそも、昨年末から、中国湖北省武漢市から感染が始まった新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) は、今や、世界的な大流行を見せている。
 何しろ世界的である。
 我が国も、乗るしかないこのビッグウェーブにと言わんばかりに、じわじわと罹患者が、広まっている。

 しかし、疫病などというと、歴史の一頁でしかない世代の川中島には、やはりピンとこない。

 とは言え、低学歴の川中島の呆けた認識とは別に、世界は否応なしに存在する。
 人類と感染症の血みどろの歴史は、もはや腐れ縁と言える。
 人類誕生以前から、生物の歴史は、そのまま感染症の歴史でもあると言ってよいだろう。
 何しろ、恐竜の絶滅の原因の一つとしても、ウイルス説があるくらいの古女房である。

 要するに、生物(人類)は、共に手と手を取り合い、悠久の歴史を刻んできた。

 何の罪も無い人間が、自分が、家族が、恋人が感染症という理不尽な死神により、その生命を奪われる。
 余りにも意味不明で理不尽な、どうしようもない災害である。
 もっとも、人間の理不尽な運命は疫病だけではないが、運命の主要な要因の一つとして、古くから個人・政府を問わず、疫病は、畏怖と恐怖の対象であった。

 そして、畏怖と恐怖は、そのまま神の条件でもある。
 疫病は天災と同様に、神の冥罰の地位が与えられた。
 各文明の神話の記載では、東西問わず、疫病(感染症)は、為政者への天誅であり、神の怒りの象徴として記述された。

 聖書の神は、エジプト脱出において、有名な十の災いを放ったが、その一つが疫病であることは有名である。

 日本においても、崇神天皇の時代に、疫病の流行があった折、天皇の夢に、大物主という神を三輪山で祀れば収まるという神示があり、その通りにしたところピタリと疫病が収まった。
 これが、後の奈良県大神神社である。

 要するに、古代人にとっては、疫病(感染症)というのは、人智を超える神の御業として認識されていたのである。

 まだ、感染症が、目に見えない小さな菌の仕業という、医学の常識が存在しない時代である。
 今でこそ、古代人の愚昧な未開の思考回路を嗤う現代人であるが、古代人にとってみれば、疫病への、何かしらの原因追求と対策は、神頼みくらいしか方策が無かったことを考えれば、出来うる範囲での対応と言えよう。

 理不尽な原因不明の疫病を、何らかの神の意志として外在化すれば、祈るなり生贄を捧げるなり何らかのアクションにより、対策が出来る。
 原因と結果の解析は、現代科学から見れば稚拙ではあるのは言うまでもない。
が、そこには、無明の現象を解明し、対策を建てるという、人間の問題解決の努力の結果の累積の歴史でもある。

 情報が限られていれば、最適解は限られてしまう。
 そこには、知能の高下は関係ない。事象に立ち向かう人類の叡智と勇気があるのみである。

 特に、領民の命と税収を預かる為政者にとっては、対策の一つでもしないと、彼ら自身の存在意義として、やっていけなかったのだという面もあるであろう。
 貧病争の三つの不幸は、人間の世代を超えた不幸であるが、それを集団内にて解決出来ない為政者は、首をすげ替えられてしまうからである。

 その意味では、下等な生物の細菌の感染症に、神ならぬコロナちゃんと擬人化するのは、古代からの人類の伝統芸能と言える。

 

 

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 災異説におけるコロナ論 まとめ

 

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